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| 「訳詞してくれませんか?」1枚のレコードを百恵から渡された。シルビー・バルタンの 「ラ・レター」 という歌であった。 |
| 百恵はどんなに遅くとも部屋にこもってレコードを1時間は聞く習慣があった。 |
| 「出来ればステージで歌いたくて,毎日聞いていたんです」 |
| 針のすりへるまで聞いたはずのそのレコードを視聴しようとして驚いた。 |
| 傷がどこにもなく,ラベルも真新しい印刷のまま・・・。ていねいに百恵は音を聞いていた。 |
| この執着心は尋常ではなかった。 |
| 2週間後,かろうじて訳詞した原稿を百恵にみせると,うれしそうにバッグから赤いノートをとりだして写し出した。 |
| プレスリー,ロバータ・フラックのナンバーが細いインクの文字で,となりにびっしりしたためられていた。 |
| 百恵の地方ショーは彼女自身が自由に構成している。「キルミー・ソフトリー」を大人びて歌えば,オールドポップスの |
| 「可愛いベイビー」が飛び出る。開幕のオーバーチュアに「ささやかな欲望」をアレンジして起用もする。 |
| 「実験的といっては地方のお客様にすまないけど,試行錯誤の中で私のものにした歌を拾い集めて来年夏の新宿コマ |
| リサイタルのストックにしたいんです。」 |
| 今年の新宿コマでバンドリーダーから言われた言葉が耳をついて離れない。 |
| 深夜のリハーサルから四日連続興業、1日3回公演の日もあり,終日は出演者の体力は限界であった。 |
| 「百恵ちゃん,あなたの目の色が違うから,私達はついていけるんだよ。あなたのせいさ!」 |
| 百恵は鏡を見た。いつもと変わらぬ素顔だった。 |
| そうだ,素顔が素直に迫力を増していったにちがいない。 |
| カメラの前で緊張しきってつくろう虚偽の顔ではなく,それは1番いい顔だ。 |
| 「私は面食いなんです。」百恵の面食いとは,宇崎竜童を美男といわしめる。 |
| 波に乗っている男の顔に百恵はほれる。いい素顔の男と女,そんな仲になりたいと思う。 |
| 「どんなに小さな会場でもいい,お客様がひとりでもいい。ステージに上がりたい」 |
| 歌とは素顔で歌うものと,百恵は分かりかけてきた。 |
石原 信一 「青春かげろふ 山口百恵/第11章 素顔」より抜粋 |
| (「スポーツニッポン」昭和51年12月20日号掲載) |