●農薬とその製剤,有効成分の関係

農薬とは厳密には製剤をいう。したがって,厳密にはDDTが農薬なのではなく,DDT乳剤などが農薬となる。また,剤形や含有量が異なれば違った農薬になり,さらに,同じ製剤でも販売会社により異なる農薬となる場合もある。ときに,農薬とその活性本体を混同し,統計値を議論している例も目立つ。しかし,このホームページでも厳密には区別せず用いている。

【00/08/13作成】

日本の単位面積当たりの農薬の使用量は米国の7倍であるという無意味なお話がある。これがなぜ無意味になるのかという視点から農薬とその製剤について説明しよう。

本題に入る前に,比較そのものに意味がないことを指摘しておく。北海道のジャガイモ栽培地域と,新潟の米作地域と,信州のリンゴ栽培地域と,沖縄のサトウキビ栽培地域とで農薬の使用量を比較しても意味がない。作物が異なれば使われる農薬が異なるだけである。同じ米作地帯でも新潟と北九州を比較しても意味はない。地域により発生する病害虫が異なるだけである。

日本ではコメがもっとも重要な作物であるが,世界的に見た場合にはマイナーな作物の1つにすぎない。世界的には小麦,トウモロコシ,ワタが重要作物である。日本と米国での農薬の使用量の比較からは,「小麦,トウモロコシ,ワタは少ない農薬でもできるようだ。」ぐらいのことしかいえない。

さて,本題に入ろう。イネの箱処理剤という農薬がある。現在の田植えでは育苗箱で育てマット状になった稚苗を田植え機に装填するのだが,田植えの前に育苗箱に5%粒剤などの農薬製剤をまいておくと田植えの際にその何粒かが苗の根本に同時に埋め込まれる。粒剤からは徐々に農薬がしみ出し,イネにとって最も弱い苗の時期に病害虫から守ってくれる。しかも,イネが十分に成長した頃には分解してなくなってしまう。この方法は,水田全体に農薬を散布しないために使用量が少なくて済み,田面水も汚染しない優れた方法である。

これからは仮想的な話であるが,米国ではこうはいかない。飛行機で種をまき,飛行機で農薬をまく。水田全体に散布しないといけないから,同じ農薬なら5%粒剤より大量にまく必要がある。ここでは単位面積当たり8倍必要になると仮定しよう。飛行機を使った散布では積載量に限りがあるため,水で薄めて均一に散布するなどといった非効率なことはできない。80%ULV剤といった高濃度の農薬を薄めずに霧状にして散布することが多い。

この例では,日本は米国の2倍もの農薬を使っていることになる。そういえば読者諸君は驚かれるだろうか。トリックは,農薬農薬の有効成分(活性本体)という言葉をあえて混同して用いたことにある。農薬とは正しくは製剤をいう。この場合は5%粒剤と80%ULV剤が正しい意味での農薬になる。

整理しよう。

農薬
有効成分の散布量の比
製剤の散布量の比
日本
5%粒剤
1
2
米国
80%ULV剤
8
1
文頭の農薬の使用量の比較とは正しい意味での農薬,つまり製剤の比較である。日本では米国に比べ濃度の低い粒剤などの比重が高い。散布剤についても,日本では20%水和剤といった工夫を加えた製剤が多く,米国などでは40%や60%といった高濃度の製剤が多い。日本の農薬製剤の使用量が米国の7倍なら,有効成分については2〜3倍ぐらいではないだろうか。そして,5%粒剤と80%ULV剤の例で示すように「農薬」の使用量の多い方が環境にやさしい場合も多い。

つぎに,安全な農薬ほどその有効成分の使用量が多くなるという一般則にも注意が必要である。これについては,「農薬に関する報道は,外国の新聞の「日本人,幼児を誘拐」の類である。」に記載したが,たとえば,同じ殺虫剤でもピレスロイドに比べ機械油や石鹸などの安全な農薬は大量に散布する必要がある。

結局,日本の単位面積当たりの農薬の使用量は米国の7倍であるというお話は,無意味というよりむしろ有害なのである。

このような反社会的な情報を広めようとする御仁は2種類に分類できる。農薬とその有効成分の区別もつかないような幼稚で無邪気な素人,そして,何らかの邪悪な意図をもって誤った情報を流布しようとたくらむ不逞の輩(やから)である。

 

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