週刊金曜日
反農薬東京グループ(辻万千子代表)「農薬の普通物をやめさせる一歩」 

【11/09/15】

反農薬東京グループ(辻万千子代表)は「農薬を「普通物」と呼称しないよう通知指導を求める」との記事をホームページに掲載している。(週刊金曜日の記事は見ていない。表題は農薬ネット掲示板の記載を信じた。)

反農薬東京グループの不見識には呆れるほかないが,流石「反農薬東京グループ」と感心もした。弩素人は常人には思いつかない奇抜な発想をするようだ。なぜか,クイズヘキサゴンUで「悲劇はトラジディ,では喜劇は?」との質問に「トラジロー(フーテンの)」と即答した里田まい氏を思い出した。

私が学生の頃は溶媒としてベンゼンが普通に使われていた。しかし,ベンゼンには発癌性の問題があるため,現在はトルエンが代替物質に使われることが多い。トルエンは毒物及び劇物取締法で劇物に指定されている。では,ベンゼンはどうか。ベンゼンはトルエンに比べ発癌性が数百倍あるとされ,危険であるから毒物及び劇物取締法に規定はない

毒物及び劇物取締法に規定がないことを「普通物」というなら,ベンゼン普通物になる。では,なぜそうなるのか。ベンゼンでは毒劇物取締法での規制は重要ではなく,発癌性が重要な毒性となるため特化則(特定化学物質障害予防規則)で第2類に指定されているためである。毒物及び劇物取締法(毒劇法)は,急性毒性(急性経口毒性試験,急性経皮毒性試験,吸入毒性試験,皮膚刺激性試験)に関する規定である。これら以外の毒性によって強い規制がなされる場合は毒劇法の対象とはならない。

整理のため,以下に「普通物」を分類する。なお,毒物及び劇物取締法に規定がないことを理由とする幼稚な「普通物」を「辻式普通物」と定義する。

S級普通物:厚生省令「毒物及び劇物取締法施行規則」に基づき必要な試験成績等を提出した結果,厚生労働大臣が毒劇物に該当すると判定した農薬等以外の農薬等の普通物
A級普通物:法律「毒物及び劇物取締法」に基づき必要な毒性試験成績等を基に,厚生労働省当局が毒劇物に該当しないと判定した一般化合物等の普通物
B級辻式普通物:他の法令則で規制されるため当局が毒物,劇物の分類の必要がないと判断した化合物等
C級辻式普通物:使用実態等に基づき,当局が毒劇法で規制する必要がないと判断した化合物等
D級辻式普通物:使用実態が不明であり毒性試験のデータもない化合物等
E級超辻式普通物:専門家の常識では毒物,劇物に該当することが明らかであるにも関わらず,辻万千子氏レベルの弩素人が毒性試験も行わずに普通物だと信じている天然物等

ベンゼンB級辻式普通物である。この分類には医薬品,医薬部外品の他に,麻薬,覚せい剤等がある。

C級辻式普通物には猛毒のテトロドトキシン(フグ毒)などが含まれる。保健衛生上の見地から一般人が取り扱うことが考えにくい化合物についてはこの法律で取り締まる必要はないと看做される。

D級辻式普通物は化合物の99.9%以上を占めるだろう。私は合成屋であった期間が短いため,化合物千個程度しか合成していないが,毒劇物の判定を受けたのはベンフラカルブだけである。

E級超辻式普通物の代表は,木酢液,竹酢液などの「似非農薬」だろう。

さて,肝心のS級普通物であるが,まず,農薬の毒物指定,劇物指定は他の化学物質に比べ極めて重いことに留意しなければならない。私は殺虫剤ベンフラカルブの開発に従事したが,その有効成分の劇物指定とその一部除外によって,昭和天皇陛下の御手を二度も煩わせた。即ち,農薬の毒劇物指定は厚生省令(第四号)である毒物及び劇物取締法施行規則の改正によってなされ,法令の改正には御名御璽を戴く必要がある。逆に,農薬が毒劇物に指定されないことも,御名御璽を戴くほどの重要事項といえるだろう。

農薬の「普通物」とは毒物及び劇物取締法の試験項目を全て実施し,その他に催奇形性や発癌性の試験など農薬登録に必要な全ての試験で問題がないと判断されたものである。即ち,当局の審査を経て,毒物及び劇物取締法において規制すべき対象とならないとのお墨付きを得た農薬を「普通物」というのである。

A級普通物も当局の判断を経る。一般化合物の場合,審査の結果,毒物,劇物,特定毒物とされた物は,それぞれ毒劇法の別表一,二,三に掲げられる。農薬の有効成分の一部(パラチオンなど)もこの別表に掲げられているが,これらは失効した農薬が多く,化学物質としての規格である。これはニコチンの分類をみれば解りやすい。ニコチンはS級分類,A級分類でともに毒物であるが,S級分類は農薬製剤の分類,A級分類が化合物としての分類である。

以上,述べたように普通物といっても多くの種類があり,S級分類,A級分類での普通物が本物の普通物であって,C級,D級の辻式普通物及びE級の超辻式普通物を「普通物」と考えてはならず,ましてや記載などしてはならない。一般には,毒劇法に規定のない物を「普通物」というが,私は,農薬のようなS級分類での普通物だけに「普通物」という名称を与え,化合物のA級分類での普通物には「普通物相当」という名称を与えるよう法律に定めるのが毒劇法第一条の目的,即ち,保健衛生の向上に寄与すると考える。
第一条  この法律は、毒物及び劇物について、保健衛生上の見地から必要な取締を行うことを目的とする。

一方,辻氏は安全との誤認を与えないため,S級である農薬の普通物を廃止せよと主張している。これは農薬の普通物を危険極まるC級以下の辻式普通物と区別するなとの主張であり,毒劇法の目的とは逆に保健衛生の向上を妨害する効果しか得られない。

換言すれば,辻氏の主張は「ベンゼンは普通物でトルエンは劇物だから安全なベンゼンを使うべきである。」と吹聴するに等しい反社会的行為といえる。もちろん,反農薬東京グループは反社会的団体であるから,反社会的行為を為すのは当然であろうが。

蛇足)この小文が「農薬以外の普通物をやめさせる一歩」となることを願ってやまない。

 

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