巻頭閑話(2011年)

【11/08/23】 原子力の安全規制を担う新組織が環境省の外局として設置される。
【11/08/02】 中国では文化大革命当時,米の反収は45,000 kgに達していた。
【11/07/29】 牛のセシウム137の全頭検査にはLSC(液体シンチレーションカウンティング)法が適当と思われる。
【11/07/27】 1963年5月の中国地下核実験でのセシウム137の降下量は,今回の原発事故に匹敵する。
【10/07/11】 放射性物質の量とその単位
【10/07/11】 放射性物質の量の測定

 

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【11/08/23】 原子力の安全規制を担う新組織が環境省の外局として設置される。

原子力の安全規制を担う新組織環境省の外局として設置されることが閣議で決まってしまった。菅直人首相が環境省に拘ったためと聞いている。私のこの報道に対する感想は「八百屋で太陽電池を売らせるつもりか。」である。

市民運動家(兼首相)の管直人は,環境省を有機無農薬栽培の野菜を売る「正義の八百屋」と思っており,「正義の八百屋」なら市民の健康と自然環境を守ることに熱心だから,太陽電池の発電システムの販売を任せるのに相応しいとでも考えているようだ。

これが誤りであることは,環境省(当時は環境庁)のゴリ押しで設立された環境ホルモン学会が,如何に日本の化学物質の安全性評価を歪め,無意味な研究に血税を浪費したかを考えれば歴然であろう。

 

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【11/08/02】 中国では文化大革命当時,米の反収は45,000 kgに達していた。

昨日(8月1日)から,BSプレミアムで「家族と側近が語る周恩来」(4回シリーズ)が始まった。その第1回で,毛沢東の農業革命の成果として,稲が密集して豊かに稔り,大人が乗っても倒れない「稲穂の上に立つ人」の宣伝映画が紹介された。大躍進運動の成果では,人民日報の「子供が乗っても倒れない稲穂」の捏造写真が有名だが,それ以上の宣伝映画もあったようだ。

番組中,人民日報の記事の見出しで,「一定面積(畝の偏の部分;意味は畝と同じで667 m2;中国版wikipediaより)当たりの米の収量6万斤(現在,斤は日本では600 g,中国では500 gだから,30,000 kg)」が紹介された。これを反収(10a)に換算すると45,000 kgとなる。この反収を常識のある者がみれば,2桁計算違いをしていると思うだろう。

当時(1970年から1975年ころまで),日本でも朝日新聞文化大革命礼賛の「おべんちゃら」記事があふれ,その頃の学生運動の闘士たちは,これらの記事を妄信して,批判的な言動をする教授たちに自己批判を迫っていた。私の記憶では,中国の農業政策に関する朝日新聞の記事を完全な捏造として否定したのは大阪市立大学の吉良竜夫教授(当時)だけであった。そして,菅首相をはじめとするその当時の学生運動の闘士たちは,中国では文化大革命によって理想的な国家が建設されつつあると信じ,米の反収45トンも信じていたのだろう。

彼らは,いま現政権の重要な役職を占め,農業政策を動かしている。そう考えると,民主党の農業政策や原子炉事故での農家に対する態度がなんとなく理解できる気がする

 

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【11/07/29】 牛のセシウム137の全頭検査にはLSC液体シンチレーションカウンティング)法が適当と思われる。

今回の稲藁のセシウム137汚染による牛肉の汚染問題について,多くの県で全頭検査を行うことが決定されたという。その方法については不明だが,スクリーニングであれば,私はLSC法(液体シンチレーションカウンティング)が適当と思う。LSCとはβ崩壊核種をβ線のエネルギーを光に変える化合物を含む溶媒に溶かし,一定時間に光った回数によって,β崩壊核種の数量を測定する手法(または,その装置;Cはカウンター)である。

セシウム137はβ崩壊核種であり,β崩壊(正確ではないが,原子核の中性子の1つが,陽子と電子とニュートリノに変わると考えればよい)により,原子番号が1つ増え,バリウム137に変わる。その際,95%は準安定状態(metastable state)のバリウム137を経てγ線を放出して安定なバリウム137に変わる。β線と異なり(β崩壊ではニュートリノがエネルギーの一部を持ち去る)γ線のエネルギーは一定であるため,γ線同定・定量ができる。しかし,この方法は装置が高価であり,時間を要し,必要な試料も多い。

一方,私が考えた(というより,大抵の専門家なら考える)LSC法では,まず,蓋付磁性坩堝牛肉2.5 gを加え,徐々に加熱して炭化する。炎をあげて燃えると試料が飛散するので,それを防ぐには少し経験が必要となる。完全に炭化したら濃硫酸を加え加熱する操作を繰り返し,完全に灰化する。その際,強熱により濃硫酸は三酸化イオウと水に分解し,揮散する。具体的な操作については,第十六改訂日本薬局方(JP16)の強熱残分試験法が参考になる。

得られた灰分にはセシウムの硫酸塩が含まれているので,これを水1 mLに溶かし(一部は,溶けずに懸濁する),20 mLのガラス製シンチレーションバイアル瓶に移し,さらに水1 mL で洗いこむ,これにAquasol-2などの乳化型シンチレーションカクテルを加え,振盪すると,ゲル化する。これをLSC測定に供する。測定時間は10分程度で十分である。

私は,LSCでは炭素14(β線の最大エネルギー0.156 MeV)しか測定した経験がないが,セシウム137のβ線は0.512 MeV(95%)と1.174 MeV(5%)であり,炭素14に比べ高エネルギーであるから,炭素14で50 cpm程度(使っていたアロカのLSCで)あるバックグラウンドもかなり低減でき,また,外部標準線原チャンネル比法等でのクエンチング補正も容易であろう。従って,1バイヤル中1 Bq程度定量下限にできると思われる。牛肉2.5 g中の1 Bqは牛肉1 kgでは400 Bqとなり,暫定基準値500 Bq/kgを考えた場合,十分スクリーニングとして使えることとなる。

 

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【11/07/27】 1963年5月の中国地下核実験でのセシウム137の降下量は,今回の原発事故に匹敵する。

昨日(2011年07月26日),毎日放送「ちちんぷいぷい」の石田ニュースのコーナで「密着 本当に原発事故の影響ない?府内海水浴場で調査」という放送があった。

大阪府健康医療部の職員が,りんくう南浜海水浴場など4か所で,地表1 cmとその上2か所の空間線量率を測定していたのだが,バックグラウンドと同レベルで海水にも問題はなかった。私がみても,測定者には十分な知識があり,測定機器も適切であった。

その後,大阪府では大阪府立公衆衛生研究所において50年以上空間線量率や毎日及び1月間の降下物(フォールアウト)の測定を続けているとの報道があった。1月間の降下物については,直径80 cm程度(私の目測)の下部が漏斗状の金属製円筒に水を張り,この水盤上に降下した放射性物質を採取し,核種毎に分析していた。

機器の説明のあと,担当者の示したセシウム137の月間降下量のグラフは興味深かった。以下に概要を示す。

  大阪府におけるセシウム137の月間降下量(MBq/km2
 1963年05月  中国地下核実験  690
 1986年05月  チェルノブイリ事故  48
 2011年04月  福島第一原発事故(直後)  7.9
 2011年05月  福島第一原発事故(1か月後)  1.0

1960年代,米ソ中が核実験を行っていた頃の値は極めて高く,その中でも1963年5月の690 MBq/km2は際立って高かった。この事件については,巻頭閑話のチェルノブイリと中国の地下核実験【02/06/01】に記載した。おそらく,中国の奥地で行われた地下核実験でまき散らされた放射性物質が黄砂に付着して襲来したものであろう。690 MBq/km2は690 Bq/m2と同等であり,牛肉のセシウム137の暫定基準値500 Bq/kgと比較すると無視できない量と思われる。しかも,これは大阪市東成区の市街地内の建物屋上での値であり,黄砂の襲来の多い北九州のホットスポットであれば,この2桁上の数値を示す場所があっても不思議ではない。

セシウム137の半減期(30.1年)を考えると現在でもその位置での測定は可能と思われるので,当時の気象状況からホットスポットの場所を推定し,その付近に住んでいた住民のその後の健康調査を行えば,今回の原発事故の対応に役立つデータが得られると思われる。

大阪府立公衆衛生研究所では,降下物の分析以外に,水道水,主要な野菜,土壌,牛乳等の分析も続けているという。このような,地道な研究には敬意を表さねばならない。科学音痴(リテラシーの欠如した)の蓮舫議員の「20年以上水道水から検出していないなら分析は税金の無駄遣いだ。」といった低いレベルの雑音に惑わされないでほしい。

1963年5月にこのような事実を報道せず,その後,今日に至るまで一切報道しなかったマスコミにも反省を促したい。日本人全体の健康を考えた場合,大々的に報道された1954年の第五福竜丸の被曝事件よりはるかに重要な事件だが,中国相手だと日本のマスコミは口を噤む。

大阪のマスコミでは,「たかじんのそこまで言って委員会」や関西テレビのスーパーニュースアンカー「青山のニュースDEズバリ」など,東京のキー局ではまず報道されない話題が報道される。ちちんぷいぷいの石田ニュースもその1つである。

ただ1つクレームをつけると,石田氏の示したパネルのセシウム137の月間降下量の単位が,ミリベクレル/km2になっていた。私にとってみれば,ブラジルの某国立公園での白蟻の生息密度はkm2あたり6億9千万匹であるいう記事を,0.69匹であると誤って記載しても誰も不思議に感じないのと同じである。

 

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 【11/07/11】 放射性物質の量とその単位

原子炉事故に関する最近の報道で,「放射能」という術語があまり使われず「放射性物質」という正しい術語が使われる例が増えている。これは一歩前進といえる。放射能とは放射線を出す能力であるから,「原子炉から放射能が漏れた」は「脳から暗算能力が漏れた」に等しい。私は,部下などが「amount of radioactivity」と書いてくると,「amount of 14C」などに訂正してきた。ただ,「amount of radioactivity」との表現については,以前はあまり使われなかったのだが,最近,定着しつつある。表現として間違いとまではいえない。

法律的には放射性物質の意味で放射性同位元素(Radioactive Isotope)を用い,RIと略す。私は,大塚化学のRI室長を兼任し,放射線取扱主任であり,第1種作業環境測定士でもあった。

放射性物質の量の単位はベクレルBq)である。以前はキュリーCi)であった。1 Ciは3.7×1010 Bq,つまり37 GBg(370億ベクレル)になる。1 Ciはラジウム1 gに相当するから,±2桁程度のひどすぎる概算だが100億ベクレルが放射性物質1 g程度と考えればよい。

とにかく,「放射能の恐怖」と書かれた新聞記事を読むときは注意が必要である。もっとも,このような記事を読むのは時間の無駄である。

 

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 【11/07/11】 放射性物質の量の測定

放射性物質の量の測定は,核種,特にα崩壊,β崩壊,γ崩壊のどの核種を測定するかによって異なる。また,崩壊核種はさらに短い半減期で他の崩壊を生じることも多い。

α崩壊核種の検出は空気中のラドンを電離箱型の測定器を用い電離した電荷(C:クーロン)により測定できるが,GM(ガイガー=ミュラー)計数管などでは検出すら困難である。β崩壊核種14C以上のエネルギーを有するβ線ならβ線型GM計数管で検出できるが,求められるのはcpm(count per minute)で表わされるカウント数で目安にしかならない。ついでだが,3H(トリチウム)のβ線は弱く,サランラップ1枚で遮蔽できる。核種の明らかな場合は,液体シンチレーションカウンターで測定できるが,β崩壊では電子ニュートリノがエネルギーを持ち去りβ線のエネルギーが一定とならないため,複数核種の場合は概算となる。一方,γ線はスペクトル分析を行えば,個々の核種の同定,定量ができる。

よく小さな箱のような線量計がテレビなどで紹介させるが,これは固体シンチレーション型のγ線測定器(半導体型のβ線測定器もある)である。シンチレーションとはある種の化学物質が放射線によって光る性質をいい,これを利用して,その光の強さと個数から実効線量(当量)(Sv;シーベルト)を求める。

このような線量計を以前は線量(ドーズ,dose)を求める測定器だからドジメータ(dosimeter)といっていた。いまは英語の発音に近いドシメータが普通なのだが,それを思い出すたびに,関東東北の皆様は,線量計を買って菅直人首相の「ドジ」を測定しているように思えてならない。

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